■ 『21世紀日本の情報戦略』 チーム主義で行こう (2002.5.29)



日本はIT戦略をどう考えればいいのか。トヨタやホンダを考えたらいい。「得意のモデルに持ち込むこと」だと坂村健教授は言う。「個人で戦うのではなく、チームで戦う」という発想のもとで、日本型の社内ベンチャーシステム確立がひとつのポイントになると。

ウィンドウズと言えばビル・ゲイツであるが、「プリウス」と聞いたとき開発者の名前は頭に浮かんでこない。「トヨタ」のハイブリッド型の低公害車としか記憶にない。開発が個人ベースではなく、チームで行われているからだ。「プロジェクトX」の黄金のパターンである。

チーム主義を考えた場合、コミュニケーションの教育に役に立つという視点でのコンピュータの導入と、情報リテラシー教育が大切だと言う。相手を認めて対話することで初めてチームとしての独創性が出るのだ。ソフトウェア向きの人材を作るためには出来るだけ早い時期から議論に慣れさせるべきだという。情報をあやまりなく人に伝えるという意味の作文技術プレゼンテーションの重要性も。

個々の戦略は、今までに坂村教授がいろいろな機会に述べてきたことの集大成である。OS(基本ソフト)や文字コードについて言及している。日の丸OSであるTRONの開発者だけに説得力がある。

情報インフラとしてのOS戦略。現代社会の生命線ともいえるITの首根っこを、海外の私企業(マイクロソフトだ)に押さえられていいのかと問いかける。国へ提出する文書形式をワードに限定してしまうのもおかしい。共通基盤となる部分についてはオープンなものを使うべきだと。

文字コード戦略では、日本がコントロールできる文字コードが必要だという。現在のユニコードにない文字が見つかっても、日本が自分の判断でその字をユニコードに追加することはできないのである。漢字という文字セットに合った、オープンなTRON文字コードを発展させ日本の情報インフラとなる文字コードを作ろうと提案する。

◆示唆に富む刺激の多い本である。
・パソコンの成長はもう終わった。ユビキタス、どこでもコンピュータの時代になってきた。生活空間のあらゆるモノにコンピュータを組み入れて、直接モノ同士が情報の交換をやり合う。データを「所有する」のではなく、データを「利用する」こと。

・「すべてについて形から入る」という方法論こそが他に類のない日本の基本戦略である。一意に良否を決められないような社会科学的な事象については「下手なことを考えずに、とにかく形から入る」というのが、最善でなくても有効な方法論だからである。


◆『21世紀日本の情報戦略』 坂村健著、岩波書店、2002/3


読書ノートIndex1 / カテゴリIndex / Home