■ 『読む。生きるための読書』 養老ワールドの展開  (2025-7-8)




本書は雑誌「小説推理」に連載された推理小説の書評がベースになっているとか。それだけではなく、その時々の世間の出来事を取り上げたそうだ。
いつものように、養老ワールドが展開され、自由奔放な発想が飛びかう。
人間の世界よりも虫に関心が深い。本を読む楽しみは、虫と同じである。いくつになっても読書はできるし体力はほとんど使わない。
高齢化社会ではお勧めしたい趣味だ。


科学へのコメントがある。
「そういうものだ」が科学離れを起こすという。水を入れたコップの中に、インクを一滴たらすと,まもなく消えるが、
それはなぜか」と学生に尋ねると、「そういうものだと思ってました」と答える。自然現象を「そういうもの」だと思うと科学は生じない。
「そういうものだ」だと思っていれば考えないで済むからだ。

解剖学なんて古い学問の典型である。新しいことなんか、見つかるはずがない。どうしてそうなるかというと、対象をかぎるからである。
解剖学なら人体に話を限るからである。いまはまったく考えが違った。新しいも古いもない。問題は方法だと思うようになった。
研究生活に入ったころは、光学顕微鏡から電子顕微鏡に移っていく時代だった。電子顕微鏡を使うこと自体が新しかった――新しい方法。
電子顕微鏡で見れば、いままで見えなかったさまざまな細部が見える。それならあらゆるデータが新しいからだ。方法論を身につけること。

研究は「まさか」があるから面白いのです。
昆虫を調べているのだが、そこからわかるのは、日本の地史だ。ゾウムシなら伊豆と箱根で種類がまったく違う。
伊豆半島は実は百年前をたどれば島だった。伊豆が島だったときの状態が,虫にまで残っているのです。

そんなことを考えたって、一文にもならないことはわかっている。このだぐいの問題を考える方法はやがて別の問題にも使えるはずである。
どういうことに使えるか、それがわかったら逆におもしろくない。「まさか」だから面白いのである。

養老さんの推薦本を何冊か挙げてみよう。
◆スティーヴン・キングの『ザ・スタンド』。これをキングの最高傑作だという人もいる。
◆杉本信行著『大地の咆哮』。中国本のなかで印象に残る1冊だった。
◆ダン・シモンズの『ダーウィンの剃刀』(ハヤカワ文庫)。これはなかなか面白い。
   著者の兄弟が事故調査委員をしているので、実話が含まれているのだろう。表題は「オッカムの剃刀」をもじっている。


◆ 『読む。生きるための読書』 養老孟司、リベラル文庫、2025/3

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