■ 『バイオリニストに花束を』 カラヤンのR.シュトラウスが (2014.1.10)
著者の鶴我裕子さんは、元NHK交響楽団のバイオリン奏者。軽妙な筆致で楽しいエッセイ集である。
既刊に『バイオリニストは肩が凝る』がある。→ こちら
もちろんクラシック音楽が話題の中心である。N響の舞台裏――指揮者とか楽団員の素顔が現れてくる。鶴我さんはかなりの酒豪であることがわかりますね。豪快な飲みっぷりが伝わってくる交遊録でもあります。
著者は屋根まで雪が積もる山形で小学生時代を過ごしたという。その頃の山形で西洋音楽をするのは、おモチをバターで食べるような感じだったと。
冒頭のエッセイは、「もぐりで聴いたカラヤンのゲネプロ」。カラヤンの演奏は欠乏の中での「黄金の一滴」だったと懐旧している。芸大の学生時代に東京文化会館の大理石(1階席中ほどの仕切り)のかげで、カラヤンのリハーサルを聴いたが、この世のものとは思えないような雄弁な音楽、R.シュトラウスの《英雄の生涯》だった。一度もまばたきをしなかったような気のする50分だった。とてつもない「何か」だったと。
オーディオ業界の真空管アンプでは著名なキット屋店主が、「バレンタインデーに現れた真空管の達人」として登場するのは愉快。やる気が出てきたそうだ。「だってェー」「めんどくさー」「ムリムリ」etc.とはおさらばしよう。
「あとがき」は、丸谷才一さんが引き受けるとの約束だったようだが、残念ながら間に合わなかった。随筆の名手として、鶴我さんを褒めあげたのは丸谷さんでした。
◆『バイオリニストに花束を』鶴我裕子、中公文庫、2013/12
<本書は『バイオリニストに花束を』(2009/4、中央公論新社)がベース>
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