■ 『馬を洗って…』 戦争の影がひろがってきた  (2018.9.7)













終戦記念日の夜だったか、この『馬を洗って…』を、NHKのラジオ深夜便で聞いたのは。
男性アナウンサーの朗読だった。
その時は、夢ごこちでボンヤリと聞いていたのだが、どこか耳に残り改めて本を読んでみた。






子馬と男の子の素朴なまじわり。兄は馬の背中を川辺でせっせと洗う。馬はいかにも気持ちよさそう。かゆいところを洗ってほしいとこすりつけてくる。

馬には生まれにまつわる因縁があった。3本の足が白い馬――「三本白」という、は不幸をもたらすという。主人を殺すとか火事になるとか。
兄の懇請にまけて生かしたものの、父はいつの機会にか処分しようといつも考えていたのか。

戦争が始まる。兄は出征するが、貧弱な体格のせいか直ぐ家に戻ってくる。翌日、学校から呼び戻されて突然の兄の死を知る。
三本白の因縁だったのか。馬に胸を蹴られたという。兄の葬式の翌日、「デーン。デーン」と銃声が響いた。馬の殺害。

二十数年後の母の手紙から、兄の死の真相を知る。戦争のもたらした悲劇ではある。
版画が印象に残る。


◆『馬を洗って…』加藤多一・文/池田良二・版画、童心社、1995/5

◆加藤 多一(かとう たいち) 1934年生まれ。児童文学作家。北海道紋別郡滝上町生まれ。
札幌市役所の広報課長、市民文化室長などを経て、札幌芸術の森オープンの実務責任者に。
1986年に市役所を退職し、稚内北星学園短期大学教授に就任。1992年に退任。
◆代表作『馬を洗って』は「戦争児童文学傑作選」にも収められている。

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