■ 『ユニバーサルデザインのちから』 社会人のためのUD入門 (2024-3-13)







ユニバーサルデザイン(UD)とは、年齢や性別、能力や背景にかかわらず、できるだけ多くの人が使えるよう、最初から考慮して、まちやもの、情報やサービスを作っていくという考えかた。また、そのプロセスでもある。世の中の多様な人々が、それぞれの存在価値をみつけて生きられる社会を作るための方法の一つだと言える。


ユニバーサルデザインは街中で容易に目にすることができる。例えばこんなところだ。道路の側溝には、人やものが落ちないように網掛けがしてある。さらに、ベビーカーの車輪が落ちないように、細かい斜めの編み目のタイプもあるだろう。駅に行ってみよう。券売機は誰でもが切符を買えなくてはならない。構内の案内板は行き先をきちんと示してくれるかな。オフィスではどうか。車いすユーザーがファイル棚から書類は取り出しやすいかな?

UDの概念は、1980年代の後半にアメリカで提唱された。ノースカロライナ州立大学で建築学の教授、ロナルド・メイス氏による。ポリオの後遺症で車いすユーザーだった。ヨーロッパでは Design for All という言い方がされている。メガネはDesign for Eachかもしれない。個人それぞれに処方・調整がなされていながら、使い方は誰も間違えない。これもUDの基本である。

日本でのUDへの取組みの現状は、多様性への理解が進んでいない面があるかもしれない。女性、子ども、妊産婦、高齢者、障害をもつ人、外国人(文化、言語、宗教)といった背景の人々ともに暮らしていくための市民が理解しておくべき考え方だ。いま、UDを最も必要とし始める年代はシニアではないか。液晶画面の表示が小さく、電子レンジが使いにくくないかとか。シニアの場合、視力の低下とともに冷蔵庫内がよく見えなくなっている。家電製品はUDの考え方は必須、加齢に対する理解が不可欠である。

多様な人々のあらゆるニーズは、一方でアイデアの宝庫であり、ビジネスの源泉といえる。当事者のニーズが世界を動かした例は電話など多くの事例がある。タイプライターは障害のある人のニーズから生まれたという。音声認識は損傷者のワープロとして研究開発が進められた。ウォッシュレットも最初は病院で手が使いにくいシニアのために作られたものなのだ。

UDには7つの原則があるという。建築家、工業デザイナー、技術者、環境デザイン研究者などからなるグループがまとめたものだ。環境、製品、コミュニケー章などを含めてデザインがかかわる幅広い部にゃでの方向性を明確にしている。

1 誰にでも公平に利用できること
2 使う上で自由度が高いこと
3 使い方が簡単ですぐわかること
4 必要な情報がすぐに理解できること
5 うっかりミスや危険につながらないデザインであること
6 無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること
7 アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること


■ 以下に原則を列挙してみよう。ガイドラインとは、原則に忠実であるために必要とされる基本要件

【原則1】誰にでも公平に利用できること;誰にでも利用できるように作られており、かつ、容易に入手できること
<ガイドライン> 誰もが同じ方法で使えるようにする。差別感や屈辱感が生じない。誰もがプライバシーや安心感・安全性を得られる。魅力あるデザイン。

【原則2】使う上で自由度が高いこと;使う人のさまざな好みや能力に合うように作られていること。
<ガイドライン> 使い方を選べるようにする。右利き・左利きどちらでも使えるようにする。正確な操作がしやすいようにする。使いやすいスペースに合わせられるようにする。
【原則3】使い方が簡単ですぐわかること;使う人の経験や知識、言語能力、集中力に関係なく、使い方がわかりやすく作られていること
<ガイドライン> 不必要に複雑にしない。直感的にすぐに使えるようにする。誰にでもわかる用語や言い回しにする。情報は重要度の高い順にまとめる。
操作のためのガイダンスが操作確認を効果的に提供する

【原則4】必要な情報がすぐに理解できること;使用状況や、使う人の視覚、聴覚などの感覚能力に関係なく、必要な情報が効果的に伝わるように作られていること。
<ガイドライン> 大切な情報を十分に伝えられるように絵や文字・手触りなど異なった方法を併用する。大切な情報は大きな文字で書くなどできるだけ強調して読みやすくする。
情報をできるだけ区別して説明しやすくする。視覚・聴覚などに障害のある人が利用しているさまざまなやり方や道具でも、情報がうまく伝わるようにする。


【原則5】うっかりミスや危険につながらないデザインであること;ついうっかりしたり、意図しない行動が、危険や思わぬ結果につながらないように作られていること
<ガイドライン> 危険やミスをできる限り防ぐ配慮をすること。頻繁に使うものは最もアクセスしやすくし、危険なものはなくしたり、隔離したり、覆うなどする。危険なときやミスをしたときは警告を出す。
間違っても安全なように配慮をする(フェイルセーフ)。注意が必要な操作を意図せずにしてしまうことがないように配慮する。


【原則6】無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること;効率よく、気持ちよく、疲れないで使えるようにすること
<ガイドライン> 自然な姿勢のままで使えるようにする。あまり力を入れなくても使えるようにする。同じ動作を何度も繰り返すことを、できるだけ少なくする。
体に無理な負担が持続的にかかることを、できだけ少なくする。


【原則7】アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること
定義:どんな体格や姿勢、移動能力の人にも、アクセスしやすく、操作がしやすいスペースや大きさにする
<ガイドライン> 立っていても座っていても、重要なものは見えるようにする。立っていても座っていても、あらゆるものに楽に手が届くようにする。さまざまな手や握りの大きさに対応する。
補助具や介助者のためのスペースを十分に確保する。



◆『ユニバーサルデザインのちから 社会人のためのUD入門』 関根千佳、生産性出版、2010/1

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