■ 『スティーブ・ジョブズ T、 U』 アップルの創業 史上最強の経営者か (2022.4.3)






スティーブ・ジョブズは、2011年10月に、生涯を閉じた。享年60。壮絶ながんとの戦いだった。
ジョブズはアップルを創業し30年にわたって次々とクリエイティブな製品を生み出した。
いまや、ジョブズは、創意工夫、想像力、持続的イノベーションを象徴する究極の偶像となっている。



ジョブズがアップルとともに開発した製品群は多くの信奉者を獲得し賞賛を浴びている。
◆アップルU――マニア以外にも買えるはじめてのパーソナルコンピュータ
◆マッキントッシュ――ホームコンピュータ革命を生み出す
◆iPod――音楽の消費方法を変えた
◆iPhone――携帯電話を音楽や写真、動画、電子メール、ウェブが楽しめる機器に変えた
◆iPad――タブレットコンピューティングを普及させた
◆iCloud――あらゆる機器をシームレスに同期可能とした

アップルUはジョブズが最初に世に送り出したパーソナルコンピュータだ。表計算ソフトのビジカルクを搭載し注目を集める。ビジカルクはアップルUでしか動かなかったため、業務用としても家庭用としても買うならアップルUしかないという状況だった。

そのころ、ゼロックス社のパロアルト研究所(PARC)ではGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)の開発に取り組んでいた。当時のコンピュータはさまざまなコマンドを打ち込んで動かすもの。いかにも使いにくかった。これを、「机」のイメージをスクリーンに表出し使いやすくしようというものだ。

ジョブズは1970年にPARCへ行き、GUIの実演を見て先進性に目を見はった。後に、「あのときは、目からうろこがぼろぼろ落ちたよ.そして、未来のコンピュータのあるべき姿が見えたんだ」と言っている。ジョブズらは、PARCで見たアイデアを大きく改善し、先進的なGUIを備えたマッキントッシュの発売へと邁進する。

マイクロソフトは、マッキントッシュに対抗すべく、GUIを目指すWindowsの開発を着々と進めていた。1995年には、Windows95が大人気を獲得する。マッキントッシュの売り上げは急速に下落しアップルは赤字に転落する。ジョブズはアップルを去った。しかし、1996年 アップルのネクスト社買収を契機に、ジョブスはアップルに復帰する。このときジョブズは、「シンクディファレント」のテーマを掲げる。プロセッサーのスピードやメモリーではなく創造性なのだと。

アップルのデザイン・チームを率いたのは、30歳のジョニー・アイブだった。アイブとジョブズは、現代有数の工業デザインを生み出してゆく。ジョブズは「シンプルにしろ!」の命令のもと、ユーザインタフェースをひとつずつチェックして判断を下した。どこをクリックすべきかが直感的にわかることが大切。シンプルさの極致は、iPodにオン・オフのスイッチを無くしたことだ。

iMACやiPod、iPhone、さらにiPadなど。アップル製品は魅力的なデザインで他社を差別化し快進撃を続ける。iMACのシンプルな美しさはどうだ。家庭用デスクトップコンピュータとして、キーボードとモニターとコンピュータが一体化している。曲線を多用し遊び心にあふれている。半透明でマシンが透けて見える。ボンダイブルーが海の蒼を思わせる。ポータブル音楽プレイヤーのiPodは2001年10月発表され、すぐにヒット。大胆でシンプルなデザインが、アップルが目指す芸術・創造性と技術の交わりを現していた。

iPhoneは三位一体の革命的製品だった。ジョブズの指向した基本コンセプトは、電話がかけられるiPodだ。入力はスクリーンを直接指でタッチする。複数の入力を同時に処理できるマルチタッチ機能を持つスクリーンが必要だ。ジョブズは強引にプロジェクトを進める。開発中だったタブレットにマルチタッチのアイデアを追加し、マルチタッチ機能を開発していた他社エンジニアを部隊に取り込む。そして、ピンチやスワイプといった指操作の変換方法についての特許を買い取る。

プロトタイプを見た開発メンバー全員が、これはすごいと思った。これを携帯電話に搭載するためにはもうひと山乗り越える必要があった。iPhoneの発売は2007年。2010年末までに累計で9000万台も売れた。iPhoneは、マルチタッチを採用し、ハードウェアをソフトウェアで置き換えた結果、インターフェースが流動的で柔軟になった。スクリーン上でビジュアルに操作できるのでどの操作もとてもやりやすい。

iPadはポストPCの時代に向けての未来的なプロジェクトだった。iPhoneのマルチタッチ技術をさらに洗練させ、スクリーン上にキーボードを用意し、すべてをスクリーン優先で考えるのだ。iPadは2010年の発売。1カ月もかからずに100万台が売れた。iPadの登場により「エンドツーエンドで統合したクローズドなシステム」が完成したと言える。
しかし、「コンテンツを消費するにはすてきな製品だが、コンテンツを生み出す助けにはあまりならない」と本質的な問題が指摘されていた。


◆ 『スティーブ・ジョブズ T、U』ウォルター・アイザッックソン著/井口耕二訳、講談社α文庫、2015/9 (単行本は2011/10月刊)

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