■『羊と鋼の森』 さわやかな読後感 (2018.3.20)
日頃ほとんど小説は手にしないのだが、「本屋大賞」三冠受賞!との惹句に引かれて思わず手にした。乱暴な区分けをすれば、この本は「青春小説」に入るのだろうか。
どこか謎めいた静謐な雰囲気をかもし出すタイトル。途中まで読み進んでようやく、「羊」と「鋼」の意味するところが伝わってくる。「森」はこの小説の核心イメージを担っているようだ。
背景は北海道、雪深い里。清冽な空気感がただよう。主人公は17歳。都会にひとり下宿し高校に通っている。とりわけ目立つ存在でもないようだ。
そして、思いがけないピアノとの出会い――グランド・ピアノだ。森の匂いがしたという。ピアノの音は、静かで、あたたかな、深さを含んだ音。
吸い込まれるようにピアノ楽器店への就職。調律師へと踏み出す。
成長を温かく見守る上司。多様なバックグランドをかかえて生活している同僚たち。顧客との葛藤がある。美少女も、青春小説の舞台はメンバーがそろっている。
たしかに読後感はさわやかである。ピアノの音をもっと聞きたかった。深い音とはどんな様子なんだろう。調律で音が変身するのだろうか。著者はピアノ演奏の経験が長いようだ。
◆『羊と鋼の森』宮下奈都、文藝春秋、2015/9
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