■ 『AIに負けない子どもを育てる』 「読解力アップの実践法 ((2020.2.2)








いまAI(人工知能)は最新の技術分野に広く進出している。思いつくままに挙げてみると、クルマの自動運転、将棋や碁の対戦とか、外国語の自動翻訳にも、写真の顔認識もそうだ。さらにAIの活躍分野が広がれば、「近い将来には人間のやるべき仕事は、AIにすべて奪われるのではないか」という不安が生まれる。もっとも気にかかるのは、将来を担うべき子どもの教育のこと。どう取り組めば良いのか。かねて「読解力」の重要性を強く訴えていた著者・新井紀子さんの提案がこの本にある。

新井さんは読解力のベンチマークとして、「リーディングスキルテスト」(RST)を、考案した。RSTでは「事実に書いて書かれた短文を正確に読むスキル」を検証するものであり、6分野< 係り受け解析、照応解決、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定>にわけてテストを設計している。使用される文章は、ツィッター程度の短文で、主たる出典は教科書や新聞である。「意味を理解しながら読めているかどうか」を測る一つの指標となるテストを実現できたという。

テスト例は次のようなものである。
・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し,大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
以上の2文は同じ意味でしょうか
……という問題。中学生の正答率は57%に留まったそうだ。

「事実について書かれた短文」を正確に読むことは,そう簡単なことではない。先にあげたテスト例の結果からもわかる。AIにとってもこの問題は難しい。現在のAI技術は、確率と統計を駆使するものだから。膨大な記号列のデータと、それを対象とした検索や統計処理なのだ。中学生にとって難しいことは、AIにも難しい。「意味を理解して読むこと」はAIにとっても大きな課題

コンピュータは、膨大なデータを集めてそれらの統計を取ることによって最適解を探します。人間がコンピュータと本質的に異なり、そして優れている点は「意味が(なぜか)わかること」。ほかに「欲求があること」と「全力で怠けようとする」というところも。
だから、中学校で基礎的・汎用的読解力を身につけさせることが、公教育が果たすべき役割の「一丁目一番地」になるだろう。

小学校の3・4年生レベルで、論理的に考える習慣を身につけさせることが大切である。多くの人が直感的に正しいと思うことでも、間違っていることはあるということ。多様な考えがあるのは良いことだが、科学では困る。「いろいろな意見がありましたね」と言って誤った概念を放置しないこと。きちんと論理的な道筋をフォローするようにしよう。

実験や調理実習の手順書を読んでそのとおりに実行し、そこで起きたことを文章で表現することも大切である。小学校の理科では、アサガオの観察日記や、豆電球とLEDのエネルギー効率の比較など。観察や実験を通じて、「見たとおりのことを書く」ことと、そこから自然の理や技術の仕組みを論理的に学ぶように設計されている。

観察や実験、調理実習、社会科見学などで「見たこと・体験したこと」についてメモを取り、時系列で正確に文字や図、表やグラフを使ってレポートとして表現できるようにする。正確に伝わる表現を工夫すること等々、このような力を身につけさせよう。「正確に説明する」活動はまさに「プログラミング教育」の基本である。

新聞を読むことも効果的なので薦めたい。ニュースの要約や感想を200字程度で書かせる宿題はどうか。どうやって箇条書きをすればよいか。「とても」「すごく」「〜と思った」「よかった」などの定型的な文体に逃げ込まないように、表現を工夫させることができる。数量を用いたり、仮説を立てて、検証するような文章表現へとレベルアップさせる。

国語の先生には、科学的文章や文明論について、表面的な読解ではなく、「なぜそうなったのか」を、科学や歴史、地理、情報などの知識を総動員して深く意味を読解する授業を展開して欲しいという。


◆ 『AIに負けない子どもを育てる』 新井紀子、東洋経済新報社、2019/9

    HOME      読書ノートIndex     ≪≪ 前の読書ノートへ    次の読書ノートへ ≫≫